最初の一歩で止まるのは、自社の判断がまだ言葉になっていないから
止まっている方の相談を聞くと、困っているのは操作ではありません。「何を入力すれば、うちの仕事になるのか」が分からない、という話がほとんどです。
私たちも同じところで考えました。試しにAIへ「うちのWHYを考えて」と頼んだことがあります。返ってきたのは、それっぽい、どこかで聞いた言葉でした。自社の思想を他社の言葉で埋めるのは、劣化した写しへの最短ルートです。
逆のことも起きました。自分の面談ノウハウや考え方を書きためたファイルを読ませてから出てきた文章は、言い回しのクセまで自分に寄っていました。AIが急に賢くなったわけではありません。読ませた源泉が自分のものだった、それだけのことです。
人材紹介の仕事は、スカウトも推薦文も候補者への連絡も、読み手が生身の人間です。だからこそ、自社らしさをAIに持たせられるかどうかが、そのまま相手への伝わり方に出ます。
プログラミングの知識は要らない。慣れが必要なのは黒い画面だけ
「エンジニアだからできるんでしょう」とよく言われます。正直に答えると、黒い画面、つまりターミナルを見慣れている、という一点だけは合っています。それだけです。
プログラミング言語の知識も、サーバーの知識も、画面デザインの知識も要りません。Claude Codeは日本語の指示に素直で、細かいニュアンスも普通に伝わります。ファイルや資料を日本語で扱えるAnthropic社のAIツール、という理解で十分です。
分からないことが出てきたら、「何が分からないのかが分からないので、教えて」と聞けば通じます。経験が少し活きるとすれば、問題を切り分けて指示を出す感覚くらいで、これは現場の相談対応と似ています。
ナレッジフォルダに入れるのは、手順ではなく「判断」
フォルダに入れるのは、きれいなマニュアルではありません。自分がどこで何を判断しているか、です。私たちがためてきた中身は、たとえば次のようなものです。
- 初回面談の進め方(何をどの順番で聞き、最初に出てきた言葉をどう深掘るか)
- うまくいった面談の実例と、「なぜうまくいったのか」の分析
- 求人を紹介するときの判定基準と、お断りするときの伝え方
- 面接対策、クロージング、候補者フォローの型
- 自社のWHY・WHO・WHAT(誰に、何を、なぜ提供するのか)
形式は、見出しを付けた文章ファイル(mdファイル)で構いません。表計算ソフトのような枠組みを先に作る必要はなく、話し言葉のままで始められます。
書き出す作業自体も、Claude Codeと一緒に進められます。自分の気づきを声のメモに残し、文章に直す。それを「見出しを付けて読みやすく整えて」と頼む。ここは手伝ってもらう領域です。
ただし、どれを自社の正本にするかは人が決めます。似た内容のファイルが増えたとき、どちらを基準にするかを決められるのは、現場を持っている人だけです。
AIに任せる範囲と人が担う範囲は「合理か、熱量か」で分ける
人材紹介の業務の多くは、合理性の作業です。情報を整理する、文章にする、ルールどおりに処理する、漏れなく追いかける。この領域はAIが得意です。
一方で、候補者の熱量に触れる場面と、意思決定に伴走する場面は人が担います。線引きの基準を「合理か、熱量か」の一本に絞ると、迷いが減ります。
| 場面 | Claude Codeに任せる | 人が決める・担う |
|---|---|---|
| ナレッジの整理 | 手元の文章を読んで分類案を出す、重複や抜けを指摘する | どれを正本にするか、何を社外に出さないか |
| 推薦文やスカウトの下書き | ナレッジと経歴をもとに下書きを並べる | 事実確認と修正、誰にいつ送るかの判断 |
| 選考の抜け漏れ | 情報を横断して整理し、やることを並べる | 候補者への伝え方と、伝える順番 |
| 初回面談 | 事前の予習メモを用意する | 本音を引き出す対話と、意思決定への伴走 |
前提として、AIの出力は人が事実確認・修正してから候補者や企業に使います。ここを外すと、速くなった分だけ事故が増えます。
大事なのは機能の数ではなく、何をAIに渡し、何を人に残したかという意思決定のほうです。
最初の2週間で進める5つのステップ
- テーマを一つ決める。全業務を一度に整理しようとせず、「初回面談の進め方」など、自分が一番たくさん判断している場面を選びます。
- 言葉にする。頭の中にあることを声のメモに吹き込み、文章に直します。整える作業はClaude Codeに頼み、内容の正しさは自分で見ます。
- 分類を決める。ファイルが増えてきたら、面談・求人紹介・選考対応といった単位でフォルダを分けます。分類案はAIに出させ、採用するかは人が決めます。
- 小さく試す。「このフォルダを読んでから、この候補者の推薦文の下書きを作って」と頼みます。出てきた文章を自分が書く文章と比べ、ズレた箇所をナレッジに書き足します。
- 更新の手順を決める。週に一度、その週の気づきを足す時間を取ります。足した分だけ、翌日の出力が変わります。
この順番は、何を聞くのか、どう分類するのか、どう読み込ませるのか、どう業務に使うのか、どう更新するのか、という型に沿っています。どこかを飛ばすと、だいたい途中で止まります。
指示の出し方の3つの原則
原則1:「作って」の前に「読んで」を入れる
いきなり「推薦文を書いて」と頼むと、一般論が返ってきます。「このフォルダの判定基準を読んでから」と先に付けるだけで、出力の中身が自社寄りになります。どのファイルを根拠にしたかも、あわせて書かせると確認が楽になります。
原則2:分からないときは、分からないまま聞く
用語が分からない、どう頼めばいいか分からない。そのときは「何が分からないのかが分からないので、教えて」と素直に書けば通じます。専門用語に言い換える必要はありません。
原則3:らしさは、形容詞ではなく実例で渡す
「丁寧に」「熱量を込めて」と言っても、相手には伝わりません。うまくいった面談や文面の実例と、「なぜうまくいったのか」の分析をセットで渡すほうが確実です。自社らしさは、説明ではなく事例から写し取られます。
つまずきやすい5つの型
道具選びから入ってしまう
外から出来合いのツールを買ってくる発想だと、自社の細かい癖や判断のクセは入りません。自分の業務に合わせて組むから、現場のやり方がそのまま仕組みになります。
自社のWHY・WHO・WHATをAIに考えさせる
ここは経営者やCA自身の中からしか出てきません。言葉にできていない思想は、そもそもAIに渡せません。言葉にする作業は、AIに何を学ばせるかを決める作業でもあります。
一度作って終わりにする
ナレッジベースは、作るものではなく育てるものです。面談のたびに新しい気づきが出ます。それを足し続けないと、出力は作った日のまま止まります。
候補者情報の置き場所を決めずに始める
どの情報をどこに置き、何を読み取り専用にするかは、最初に決めます。私たちも、選考管理の候補者情報は読み取りだけに限る形で扱っています。ここは慣れてから直すより、最初に決めたほうが安全です。
現場を減らす前提で設計する
ナレッジの源泉は、結局すべて現場です。濃い面談をして、候補者の本音に触れて、自分の判断を言葉にできる人がいないと、載せる中身が生まれません。AIを入れても現場は空っぽになりません。むしろ、現場で何を感じ取れるかの価値が上がります。
定着のカギは、現場より先に経営者が触ること
導入がうまくいかない会社では、現場にツールを配って終わりになりがちです。私たちが目指しているのは、現場がClaude Codeに慣れることではありません。現場が成果を受け取れる状態を作ることです。
そのためには、判断基準を一番持っている人、つまり経営者や事業責任者が先に触る必要があります。判断を言葉にできるのはその人で、言葉にした分だけ、社内の質問待ちが減っていきます。
独力で型を作るのが難しい場合は、人材紹介向けClaude Code研修のような、自社の業務を題材に進める場を使う方法もあります。いずれにせよ、中身になるのは自社のナレッジです。
よくあるご質問
エンジニア経験がなくても、本当に使えるものでしょうか。
プログラミング言語やサーバーの知識は不要です。日本語の指示でかなり細かいニュアンスまで伝わります。慣れが要るのは、黒い画面に向かうことへの心理的な抵抗くらいです。分からない点は「何が分からないのかが分からないので、教えて」と聞けば説明が返ってきます。実際、私たちも社員とアシスタントという小さな体制で、日々の業務をこの形で回しています。
判断を書き出す時間が取れません。どこから手を付ければいいですか。
全部をまとめて書こうとすると、だいたい挫折します。まずは自分が一番多く判断している場面を一つだけ選んでください。面談のあとに感じたことを声のメモに残し、それを文章に整える作業はClaude Codeに任せられます。完成度は低くて構いません。足した分だけ翌日の出力が変わるので、育てながら進めるほうが続きます。
市販のAIツールを買うのと、何が違うのですか。
出来合いのツールは、多くの会社に当てはまる平均的な動きをします。自社の判定基準やお断りの伝え方といった細かい癖までは入りません。自分のナレッジを読ませて組むと、出てくる文章が自分の書きそうなものに近づきます。どのファイルを、どの業務で、どう使うかを自分たちの都合で変えられる点も違いです。ただし、どちらを使う場合でも、出力は人が確認してから社外に出します。
まとめ
Claude Codeを始めるときの壁は、操作ではなく「何を渡すか」です。渡す中身がないAIは、誰のものでもない一般論を返します。自社の判断を言葉にした瞬間に、出てくるものが変わります。
任せる範囲と人が担う範囲は、合理か熱量かで分けられます。情報の整理や下書きは任せ、正本を決めることと、候補者の熱量に向き合うことは人が持つ。この線引きを先に決めておくと、迷いが減ります。
まずは、自分が一番多く判断している場面を一つだけ選び、その判断を文章ファイルに書き出すところから始めてみてください。整える作業はClaude Codeと一緒に進められます。一本できたら、推薦文の下書きなど小さな業務で試し、ズレた箇所を書き足していく。その往復が、ナレッジフォルダを育てる一番確実な道筋です。
